元書店員たちによる読書日記


by おすすめ本処 かわら版
f0369008_08205682.jpg今回のおそろい本は早見和真のイノセント・デイズ【新潮文庫】です。最近書店の店頭でよく見かけるこの本。インパクトがある帯の言葉に惹かれ、1F岡田1F長濱1F堀次2F山口の4人で即決して読みました。
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元恋人の家に放火して妻と1歳の双子を殺害した罪で死刑を宣告された田中幸乃という女性。彼女がなぜこんな残酷な犯罪を犯してしまったのかを、関係者の視点から見たミステリー。
対談が進むうちに明らかになる我々の温度差のある感想をお楽しみ頂けたらと思います。

長濱:お揃い本の対談をするにあたり、グループLINE『お揃い本イノセント』を作ってみました!

岡田:『お揃い本イノセント』ってラノベでありそうなタイトルじゃない?笑

堀次:イノセント、がラノベっぽいよね。

長濱:内容は全くラノベとは正反対の重さだったけどね・・・・・。

堀次:重かったね!久々に、読みごたえあった。

岡田:もう、冒頭からズシーンときたもんね。なかなかヘビィなはじまり方だよね。

長濱:すごい勢いで読んでしまったよ、私。章が切り替わる毎に視点が別人になるから次が気になって一気に読んでしまった。

堀次:私は純粋に、おもしろかったと思う。現在と過去の切り替わりもうまかったと思うんだけど、みんなはどうかな?

長濱:確かに切り替えが上手かった!主人公(?)と言っていいのかな・・・死刑囚の幸乃がどんな人間なのかとその犯行動機が、接する人によって全く見方が違っていて。視点を経ていくうちに幸乃像がだんだん明確になっていくのは上手いと思った。

岡田:私も、読み始めたらあとは一気に...だったな。なにしろ、読まないことには事件の全貌がつかめないんだもの。なぜこうなったのか自分が納得する答はあるのか。そしたら、あれ?最初の印象と随分違うぞ…と。

長濱:ストーカーの犯した犯罪、というスタート地点から幸乃の母親の話とか病弱な子供時代の話とか。健気に彼氏の暴力に耐えてながらも依存していく姿とか。どんどん印象が変わっていくので引っ張られて一気読み。

堀次:てっきり最初の刑務官目線で話が進むのかと思いきや、目線が色んな人に変わって、色んな角度から事件の真相が紐解かれる感じが読み手を離さない流れだったね。

山口:思った思った!私も最初の刑務官の女性の視点でずっと語られるんだと始めは思った!

堀次:わたし、最後の方まで真相が読めなかった。

山口:じ、実は……。私、あかんかったー!!!帯に「読後、あまりの衝撃で3日ほど寝込みました…」「日本推理作家協会賞受賞」と書いてあり、しかもミステリ読みの長濱さんがいっきに読んだと言うから、とっても期待したのよ。

堀次:そうだったのかー!!3日ほど寝込みました、は確かに言い過ぎだよね。笑

山口:動機がとっても弱い!

堀次:あーそれは思った。だから、私も真相に辿り着けなかった。

岡田:私もそうだった。疑ってなかったから、終盤「あ、そこいく?」って。

長濱:私は面白く読み進めたんだけど、最後は気に入らなかった。

岡田:その最後ってのは、真相が?それとも幸乃に対して?

長濱:真相もちょっとありきたりで私は気に入らなかった。でも序盤から中盤が面白かっただけに、幸乃の最後が尻切れトンボな感じが気に入らない。

堀次:幸乃の最後はあれで良かったのかなーとも思う。それまでが酷すぎる人生だから、もう楽になっていいよって思った。

岡田:私は、真相についてはまあ、なるほどって思ったんだけど、幸乃に対して納得いかないというか、なぜその選択になる?ってモヤモヤした。もう一度信じてみたらいいのにと。なんというか…そこまで人間不信になるものかなって。いや、確かに辛い人生だったとは思うけど、あの手紙でも覆らないのかと。

山口:私もそう、岡田さんといっしょ。事件の真相というよりも、幸乃(死刑囚)の気持ちがねえ。

堀次:真相は、なんというか、ぜんっぜんインパクト無かったものが最後に飛び出してきたような…。幸乃のそれまでの人生の話のテンポが面白かっただけに…。

長濱:それ!真相で急にインパクトが薄くなった。後半急にラストまで駆け足で進んだ気がして、あれ?終わり?って思った。幸乃の人生とか選択は私はあんまり不満はなかった。

山口:私は真相はけっこうしょっぱなから、どうせこんな感じのことだろ、と思ったのが当たってたから、意外性はなかったんよ。

堀次:そうなんかー!裁判所に、老婆と若い青年が一緒に…てあたりで??あそこの差し込みかたが不自然だったけど、そこからパッタリ登場しなかったから最後まで忘れてたよ。

岡田:その点、私は疑いもせんかった。小説の中の人だとしたら、テレビや新聞で報道されてるものをそのまま鵜呑みにしてるたくさんの人たちの1人だったわ。

山口:文章で書くことの難しさだと思うんだけど、映像で見せれば通り過ぎてたことが、文章でわざわざ書くことによって、そこに焦点があってしまうというか。

堀次:ストーリーじゃないんだけど、幸乃には義理の姉と幼馴染みの男の子が二人(翔と慎一)いるんだけど、その男の子二人も重要な役回りだよね。
大人になった翔が結構傲慢でイヤだった!笑

長濱:翔本人の視点から見たら弁護士見習いとして幸乃の減刑のために奔走する好印象に思えるのに、別の関係者から見たら特に嫌な感じに読めたよね。そういう人物の書き方は上手いと思うんだけど。

岡田:サラッと読み飛ばしてたわ。動機が肝の小説だと思ってたから。ああ、そういえばって感じ。それで言えば、読み終わってから、ミスリード狙ってたんかな?って思う行動を取ってる人物もいたな。全然ひっかからんかったけど 笑。翔は、的外れなことばっかりしててね。今風にいうと「意識高い系」とでもいうのか。子ども時代が良かっただけにね。環境に恵まれて育った人特有の不遜さというのか…。

堀次:そう!意識高い系!笑
慎一は後半に進むにつれかっこよくなっていくという…。

長濱:最初は翔の方が目立っていたから慎一がどんどん表にで出してびっくりした。

山口:そうなのか!慎一もどうなのそれ!と思ったんだけど…。私はもうひたすら、聡に期待してた…。

長濱:あ!それはわかる。

堀次:わかる!

山口:また新しい登場人物ですな。聡というのは、幸乃の元恋人で妻子を殺された男性の親友。でも二人が付き合っていた当時幸乃に友情を感じていたので彼女を擁護する言動が目立つ。

長濱:急に聡が事件から手を引いてしまうから、え?って思った。

堀次:あっさりとね。

岡田:うん、急に傍観者になったね。

長濱:あんなに雪乃を理解してるのは自分だけ、とか思ってたのに、かなりあっさり手を引いたよね。


・・・・・まとめ・・・・・

長濱:さて、そろそろ感想も出揃ったので総評に参りますか。皆さん恒例の☆で評価をお願いします。

堀次:5段階やったら、☆3.5。ページをめくる手の進み具合から判定した。

長濱:私は星3つ。表紙の帯の煽り文句には不満があるけど、後ろの辻村深月さんのコメントには納得出来る。読み応えはあった。

山口:私は1.8だな。読み応えと内容のアンバランスさで判断した!

岡田:私は、悩むけど2.7ぐらいかな。あの帯の文句は逆効果だよね。言いすぎ!って思うもん。

堀次:この星をつけるところが、感想って十人十色!て感じる。おもしろい。

長濱:それにしても最初の絶賛からガタ落ちに・・・・・。

山口:死刑囚を扱う緊張感はとても良かったと思う。

岡田:幸乃の心情に肩入れできんかったのが残念。かといって、全く違う結末になってたら良かったかというと、そうじゃないしな。

堀次:わたしはそこそこうまくできてる本だと思う!笑

長濱:私も最後が気に入らないけど面白かったのは面白かったんだよ!

堀次:そうなんだよ!面白かったから、みんなにも是非読んでほしい!

長濱:賛否両論になってしまいましたが、いかがでしたでしょうか?読後の感想は人それぞれ。まずはぜひ読んで頂いて、独自の感想をコメントで寄せて貰えたらと思います!

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# by a_kawaraban | 2017-09-30 23:59 | フェア | Comments(0)

9月 稲雀侍[2F山口]

NEW177.png24日(日)「ジェイン・オースティンの読書会」という映画が好きでよく見る。読書会のメンバーは6人(女5人・男1人)。ジェイン・オースティンの著作も6作。彼らは月に1冊のペースで、誰かの家に集まって、食事をしながら感想を言い合う。面白いのは、感想を話しているうちに、自分の人生観や現状に対する思いがあふれ出してくるところ。とつぜん夫に離婚を切り出された者や、頑なに独身を貫こうとする者、教え子に恋をしている教師、などなど、抱えている悩みは深い。ジェイン・オースティンを読むことは地雷原を行くようなものだ、とメンバーのひとりは言う。私はこの映画の内容はもちろん、登場人物たちの服装や髪型、出てくる食べ物(スターバックスで何を注文するかとか)を見るのが好きで、だから何度でも見たくなる。より映画を楽しむために、ジェイン・オースティンの本も4冊読んだ。あと2冊もそのうちそのうち…。

23日(土)ぽっぺんちゃんの長靴を買いにショッピングモールに行くと、防災とボーイスカウトのイベントをしていたので参加してきた。AEDの使い方や、ロープの結び方、火の起こし方などを教わり、ぽっぺんちゃんは担架で運んでもらったり、消防車に乗せてもらった。書店では田辺聖子の新源氏物語【新潮文庫】の中巻と桜井画門の亜人【講談社】の11巻を買い、目的の長靴(ほんの2秒くらいで決まった)を買って帰った。

22日(金)好きな絵本作家は、フェリックス・ホフマン、ピーター・スピアー、チャールズ・キーピング、と確固たる気持ちで外国人作家の名前はあげられる。でもそれが日本人になると、えーっと、えーっと、馬場のぼる、初期の佐々木マキ……と、なんだかはっきりしない。これはどうしたことか、と思い、好きな本から辿っていくと、どうしても、やなせたかしに行き着く。やなせたかしというと、アンパンマン?と思われそうだけど、ほかにも絵本をたくさん書いていて、なかでもやさしいライオンチリンのすず【フレーベル館】は傑作だ。どちらも強烈な喪失の物語。とっておきなので、ぽっぺんちゃんにはまだ見せていない。最近になって、そろそろかなと思って見せたのが、タコラのピアノ【フレーベル館】。海に落ちてきたピアノを、タコラという名前のタコが上手に弾きこなす。やがてタコラは自分の力を試すために陸に上がるのだけど…。この物語もある種の喪失の物語で、コミカルなのに物悲しい。ぽっぺんちゃんはこのところ、寝る前読書の2冊のうちの1冊はタコラのピアノをリクエストする。

21日(木)秋だしなんか読もうかな、と言う夫に、司馬遼太郎の燃えよ剣【新潮社】を薦めてみた。私の電気スタンドを使って、布団のなかで読んでいる。居間にいると夫からメールが届く。「芹沢鴨殺されました」とか、「ついに池田屋事件!」とか。最近は夜になると寒いくらい涼しいので、私も布団に入って読書をしたい。電気スタンドがもうひとつほしい。

20日(水)元気だなあ…。源氏のふるまいを見ていると思う。中にはめんどくさい恋愛もたくさんあるのに、どうしてこうも精力的なんだろう。しかも、めんどくさければめんどくさいほど燃えるようだ。やめとけよ、と言いたくなる。私は源氏の男ともだち目線で読んでいる自分に気付く。ところで、源氏物語には登場人物が多いので、相関図を書きながら読んだほうがいい気がする。そういう読みかたをしたことがないけど、思い返せばあの本もあの本も、相関図を書いて読めばよかった。相関図ノートなんて、あとで読み返しても面白そう。

19日(火)さてはひまだな?! と言いたくなる。源氏といえば、とにかく女、女、で、まめまめしく女に文を送ったり、忍んで行ったりと、たまに女との別れで物思いにふけることはあっても、すぐに違う女に夢中になる。田辺聖子の新源氏物語【新潮社】は読みやすい。ほかの訳を読んだことがないので比べられないけど。ここからは、1F田端さんからいただいた手紙より抜粋。「源氏物語、田辺聖子さんにしたんですね。以前仕事場の人に誰の源氏物語が読みやすいか聞かれて、私は瀬戸内寂聴さんを勧めました。相手が60歳代のお姉様ということもあったかもしれませんが、気に入って読んでくれていました。最近、角田光代さんが訳されているのも出版されているようですが、いかがですか? 新刊なんで、4000円程するようです。いやはや本は高い。」

18日(月)
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雨降りでいもほりが延期になり、がっかりする園児たちを先生は説得する。「おいもはね 1つ ねると むくっと おおきくなって 2つ ねると むくっ むくっと おおきくなって 3つ ねると むくっ むくっ むくっと おおきくなって 4つ ねて 5つ ねて 6つ ねて 7つ ねると いっぱい おおきくなって まっててくれるよ」 園児たちは、おおきくなったおいもをイメージして、みんなで紙をつなげて、おいもの絵を描く。やがて現実と空想の境い目がにじんで、壮大なファンタジーを展開する。私はこどもの頃、このいっぷう変わった、おおきなおおきなおいも【福音館書店】という絵本が好きだった。読むと大学芋が食べたくなった。折り紙をおいもの形に切ってあげると、ぽっぺんちゃんは絵本の1シーン(おおきくなりすぎたおいもをヘリコプターで運ぶ)を真似て遊びだした。

17日(日)昨日は7F山川さんと別れたあとに、1F岡田さんの働いている書店で、赤羽末吉のおおきなおおきなおいも【福音館書店】を買った。絵本コーナーはすっかり秋のよそおいで、あれもいいなあこれもいいなあと見て回り(ぽっぺんちゃんはノンタンコーナーの前から動かないので、私はあっちに行ってはまた様子を見に戻りと落ち着かない)、でも当初の予定通り、おいもを買った。1F池谷さんからいただいた図書カードを使わせてもらう。このカードを使うときは、池谷さんも好きな絵本にしようと決めていた。

16日(土)f0369008_01354208.jpg
7F山川さんに誘ってもらい、大阪クラシックの子ども向け公演に行ってきた。最前列で聴いた生演奏の迫力といったら! 子どもの興味を引くような仕掛けも楽しかった。山川さんはぽっぺんちゃんが0歳のときから毎年この公演に誘ってくれていて、今年ようやく行くことができた。出不精な私を誘ってくれて、本当にありがたい。公演のあとは、お昼を食べて、雑貨屋をうろうろして、お茶をした。カフェーでは、ぽっぺんちゃんが抱っこでお昼寝をしたので、ゆったりと本の話や、今回のフェア(第2回 文庫本郵送交換会)のことを話せた。山川さんいわく、5F松浦さんの感想は素晴らしいらしい。薦めた側とそれを読んだ相手にしかわからない符丁のようなもの、わかるなあ。私も、私が贈った本を読んでくれた1F岡田さんの感想をうまいと思う。

15日(金)今日はいい日だった。4時間仕事をしたし、ママ友のTちゃんとランチに行ったし、夫が仕事から早く帰ってきて、ぽっぺんちゃんを散歩に連れて行ってくれたし、お風呂読書ができたし、書きたいと思っていた手紙の返事も書けた。気持ちよく、楽しい、本当にいい日だった。

14日(木)夏のあいだはずっとシャワーだった。今夜は久しぶりにお湯を張ったので、ゆっくり浸かってお風呂読書。田辺聖子の新源氏物語(上)【新潮文庫】を読みながら、至福の時間だなあと思う。夫とぽっぺんちゃんは早い時間にお風呂に入って、いまはもののけ姫のDVDを見ている。お風呂からあがると、ぽっぺんちゃんはモロが死ぬシーンで泣いていた。

13日(水)以前、池波正太郎の真田太平記【新潮社】(全12巻)に手を出したときのこと。A書店のレジ当番でいっしょになるたびに「いま何読んでるんですか」と聞いてくれる同僚がいた。私は「真田太平記だよ」と3ヶ月間答え続け、その子は「ああ、そうでした!」と言い続けた。本を読むひととの会話において「いま何読んでるの?」は、天気の話をするよりも自然なことだと思う。だからその子も条件反射で聞いてくれていたのだと思うけど、それでも私が読んでいるものに興味を持ってくれるひとがいるというのは、長い巻数を読む上で励みになった。というわけで、田辺聖子の新源氏物語(上)【新潮文庫】を読みはじめたことを報告します。上中下巻とあって、しかも相当分厚く、慣れない言葉がいっぱいで、たどたどしい読書になりそうだけど、少しずつでも読み進めるのでお付き合いください。


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# by a_kawaraban | 2017-09-24 22:00 | 【 侍 2F 山口 】 | Comments(3)
第2回 文庫本郵送交換会

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「第2回 文庫本郵送交換会」では、あらかじめ本を送る相手を、今回のフェア担当者の山口がくじで決めて、ひとりずつにこっそり伝えました。メンバーたちは、相手にぜひ読んでもらいたいと思う本を選び、思いを綴った手紙を添えて送り合いました。
フェアのとりまとめをしていると、締切日に合わせて続々と原稿が届きます。私は誰よりも先にそれを読んで、(喜んでくれるだろうか)という緊張感や、(思いがけない本が届いたぞ!)という驚きの気持ちを受け取りました。
誰かのことを一心に考えて本を贈るって素敵なことだなあと、あらためて感じたフェアになりました。楽しんでいただけると嬉しいです。


5F松浦1F池谷
宮内悠介 エクソダス症候群【創元SF文庫】

1F池谷1F長濱
友井羊 向日葵ちゃん追跡する【新潮文庫nex】

1F長濱2F田端
田中経一 ラストレシピ 麒麟の舌の記憶【幻冬舎文庫】

2F田端2F大庭
ラフカディオ・ハーン/池田雅之・編訳 新編 日本の怪談【角川ソフィア文庫】

2F山口1F岡田
石井光太 感染宣告【講談社文庫】

1F岡田2F山口
小野不由美 黒祠の島【新潮文庫】

2F大庭7F山川
須賀敦子 遠い朝の本たち【ちくま文庫】

7F山川5F松浦
有栖川有栖 乱鴉の島【新潮文庫】

*ここからは手紙の内容と感想です。


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# by a_kawaraban | 2017-09-24 06:51 | フェア | Comments(0)
177.png 書き出しライブラリー 177.png
このコーナーでは、
かわら版メンバーがいま読んでいる本の
書き出しを紹介しています。


2F山口
光源氏、光源氏と、世上の人々はことごとしいあだ名をつけ、浮わついた色ごのみの公達、ともてはやすのを、当の源氏自身はあじけないことに思っている。
彼は真実のところ、まめやかでまじめな心持の青年である。
⚫︎田辺聖子 新源氏物語(上)【新潮文庫】

1F長濱
はぁはぁはぁはぁ・・・・・。
もう走れないとばかりに、忙しなく息を吐きながら由羽希は立ち止まった。それでも後ろをすぐに確かめたのは、もちろん怖かったからだ。・・・・・何もついてきてない。
⚫︎三津田信三 忌物堂鬼談【講談社ノベルス】

1F長濱
「幽霊屋敷って、その一軒だけで充分に怖いですよね。それが複数ある場合は、どうなんでしょう?恐ろしさも倍加すると、先生は思われますか」河漢社の編集者でもある三間坂秋蔵から、意味深長な問いかけを受けたとき、これは何かあるぞと僕は身構えた。
⚫︎三津田信三 わざと忌み家を建てて棲む【中央公論新社】

5F松浦
新製品『翻訳タイプ』の広告文案を、その翻訳タイプで九ヵ国語にコピーした。
それで一日の仕事は終わりだ。
発送を卓上のトランジスタ秘書に命じて私は事務所を出、反重力シャフトで三百二十三階を一気に下降する。
赤、グリーン、黄、ブルー、紫、色とりどりの車がビルの前に並んでいる。お紺はダークグリーンのヘリ・カーと、純白の高級大型車にはさまれて、窮屈そうだった。彼女は一人乗りの最小型車だ。コバルトブルーだからお紺という。
⚫︎筒井康隆 「お紺昇天」(日本SF傑作選1 筒井康隆 収載)【ハヤカワ文庫】


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# by a_kawaraban | 2017-09-16 16:17 | 書き出しライブラリー | Comments(0)
NEW177.png14日(木)主人公が何かよくないものに追われて集落から集落へと逃げるシーンから始まる忌物堂鬼談。逃げ込む先は遺仏寺というお寺。せっかく逃げ切ったと思っても辿り着いたお寺で聞かされるのは、有難い仏法ではなく、曰くあり気なモノに纏わる怪異譚。後ろ向きに立っていたり、二度続けて同じ言葉を発せられないのは人ならざるモノらしい。面白く読めたが、前作のわざと忌み家を建てて棲むの背筋が寒くなる感じが恋しい。

9日(土)読み終えた本はタイトルと著者名、出版社をノートに記録して、スマホのアプリで登録するのが私の読書ルール。三津田信三さんの本はずいぶんたくさん読んだな…としみじみしていたらなんと新刊が出ていた!仕事を終えてから書店に探しに向かう。なんとか三店舗目で発見。さっそく家に帰って読み始める。三津田信三の忌物堂鬼談【講談社ノベルス】新シリーズの主人公は女の子。珍しい。昨日まで読んでいた本より怖さは控えめ。

8日(金)朝早めに起きて昨日の続きを読む。普段は二度寝に充てる時間を使ってラストまで一気に読んだ。怖かった。三津田さんのホラー小説は終わりがひどく曖昧でより恐怖を煽られる。原因の分からない怪異ほど怖いものはない。原因が分からないから自分に害が及ばないとは誰も言いきれないからかもしれない。要所要所で読者に障りがあるようなら本を閉じて場所を移動するように促す言葉が入っているのも、また怖い。

7日(木)久しぶりの侍。というか、久しぶりの読書。毎年恒例の職場の祭りで忙殺されていた。祭りは成功したが、準備に時間がかかり、かなり残業が増えたのが上司は気に入らなかったらしく始末書を書かされるらしい。虚しくなる。今年で祭りに関わるのは最後にしようと心に誓う。気分が落ち込んだ時は読書だ。読みたかった三津田信三のわざと忌み家を建てて棲む【中央公論新社】を読む。怖いのはあらかじめ分かっていたので人の多い空間で読むため、午前中の仕事を終えて職場の近くの大きめのカフェへ。天気は雨。幽霊屋敷を題材に取り上げるのは今までの作品と同じだが、今回は殺人や凄惨な事件があった家や団地を集め、わざとそのままの状態で移築して一つの家にしてしまうらしい。やはり怖い。たまに目を上げて周囲を確認しながら読んでしまう。「黒い部屋」「白い屋敷」と読み進めた所で雨がまた強くなってきた。一旦帰宅して続きを読む。家で読むのは少し怖かったが、読みたい欲求には勝てない。「赤い医院」を読み終えて、最後の「青い邸宅」の中の階段の描写に少し我が家と似ている点を見つけて慌てて考えを振り払う。深夜になってしまった。もう少しで読み終わるが、これ以上読むと寝られなくなるので途中で栞を挟む。電気を消して、さあ寝ようと思うと部屋の隅の暗闇が妙に気になる。

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# by a_kawaraban | 2017-09-15 08:48 | 【 侍 1F 長濱 】 | Comments(0)

9月 白露侍[2F大庭]

NEW177.png10日(日)旅の後片付けをしながら、美術館巡りの余韻を楽しんでいる。この旅で自分の好みを知ることができた。バロックと近代の絵が好きで、絵と同時に筆のタッチや額縁を観るのも好きで、年譜や解説も重要だと思っている。そういった傾向を知ることができたのは、大塚国際美術館のおかげだ。f0369008_23552602.jpg大塚では一枚だけ写真を撮った。“アモルとプシュケ”ジェラール、フランソワ作。なにも考えていなかったのに、この絵に前に立った時、はっ!となった。はじまりの空楡井亜木子【ピュアフル文庫】で主人公の真菜は片思いの相手、蓮とフランスのルーブル美術館に行き、ずっと観てみたかった作品を前に涙を流す。この絵はもしかして、その時の絵ではないだろうか。ルーブル美術館所蔵となっているし。なぜ急にそんな事を思ったのかわからない。でも、そう思って興奮した。帰ってきてから本で確認すると、真菜が観たのは“キューピットとプシケ”、たぶん正式名“アモルの接吻で蘇るプシュケ”のことだ。それは絵ではなく、彫刻だった。絵と彫刻、まったく違うけれど、ふたつは同じ題材のものだった。小説を読んだとき、このシーンのことは特別心に残っていたわけではなかったのに、“アモルとプシュケ”を観た時、どうして「これだ!」と思ったのだろう。人の脳って、記憶ってあまりにも不思議だ。

NEW177.png9日(土) 徳島県鳴門にある大塚国際美術館では、西洋名画を焼き付けた原寸大の陶板を1000点余り展示している。10時過ぎ、今日も全点観るつもりでまわっていたけれど、このペースではとてもじゃないけど全部観ることはできないと思い、古代の土器のあたりは作品だけを見て、タイトルなどは流していった。16時、全部観終わって思ったことは、ここは美術館ではなく、資料館なんじゃないかということだった。ここでは日本の美術館では珍しく、絵の写真を撮ることができる。そのため、どこをまわってもカメラのシャッター音と、自撮り棒を駆使する人と、絵の前から動かない人で賑やかだった。学芸員はおらず、ボランティアが大きな声で団体客に作品の説明をしていた。それにつられて、誰も彼もしゃべりっぱなしで声も大きい。途中ですっかり観る気が削がれて、どっと疲れてしまった。ただ、同じ題材の宗教画でも、時代や国、派が変われば絵が変わる。それを何十枚と一同に観ることができるのは、世界中でここだけだ。国が違う美術館に散ってしまった連作を常時揃え、なかなか観ることができない個人所蔵の作品や、焼失してしまった絵の復元など、ここでしか成しえないことも多く、その意義は大きい。これだけの作品を作る許可を得、実際に作り、広大な敷地と建物を用意した大塚製薬の気概と情熱にはただただ恐れ入った。美術館のガイドには「学生の時に此処の絵を鑑賞していただいて、将来新婚旅行先の海外で実物の絵を観ていただければ我々は幸いと思っております」と書いてある。いまどき企業として、この規模の文化貢献を行うなんて、ほんとうにすばらしいと思う。そして、些細なことかもしれないけれど、名画であっても日本の美術館所蔵の作品を扱っていないところに、行き届いた配慮を感じた。

NEW177.png8日(金) f0369008_23525877.jpg新幹線の中で湯川豊の須賀敦子を読む【集英社文庫】を開く。須賀さんが残したエッセイ集のタイトルごとに書かれた章をぱらぱらめくり、「あとがき」「集英社文庫版あとがき」「須賀敦子 略年譜」「解説」を先に読む。倉敷の大原美術館には、10時前に着いた。あらかじめ購入しておいたチケットと引き換えに開催中のイベント「大原美術館に眠るヒミツの絵画を探せ!!」の冊子を受け取る。ずっと来てみたかった大原美術館。夏休みも終わり、平日のせいか人が少なく、ゆっくり観ることができた。分館、新渓園の日本庭園を観てまわったあと、美術館近くのお蕎麦屋さんで昼食を食べ、また戻ってモネの池から株分けされた睡蓮の花を見た。それから工芸・東洋館を観て、児島虎次郎記念館へ向かった。虎次郎は、大原孫三郎の出資でアジアやヨーロッパから絵を買い付け、日本初の私立西洋美術館となる大原美術館の絵を集めた。f0369008_00111432.jpgモネの“睡蓮”はモネから直接購入し、価値が高く評価される前のエル・グレコの“受胎告知”を持ち帰った。その先見の明と大原孫三郎の心意気に感服しどおしだった。すべての所蔵品、タイトル、説明文、年譜を読み終えて、美術館を出た時には16時をまわっていた。隣接する喫茶エルグレコで、友人に送る絵ハガキを書いた。旅の記念に児島虎次郎の“朝顔”の絵葉書と“和服を着たベルギーの少女”のマグネットを購入した。17時、せっかくの美観地区を散策することなく、徳島へ移動するため岡山駅に向かった。

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# by a_kawaraban | 2017-09-14 20:00 | 【 侍 2F 大庭 】 | Comments(0)
9月 「私の好きなもの②」 [1F池谷]

私は食べることが好きである。自分で作る料理も、ひとが作ってくれる料理も、コンビニのお惣菜も。もちろん外食も大好きである。
身体が小さいせいか、一度に食べられる量は少ないのだけれど、食べ終わって2時間くらいしたらもうお腹が空いてくる。こんな体質(?)なので、正直いうと1日3食が普通というのはつらい。例えば昼休みは、午後の仕事に備えて食べておかないといけないけれど、お腹がいっぱいになったところで止めてしまうと夜まで持たない。自分の許容量をちょっと超えるまで食べておかないといけない。本当はちょっとずつ、1日6食くらい、というのが理想なんだけど。
友人と、こんど高めの焼き肉を食べに行こう!という話になっている。私も彼女も男っ気が全く無く、先にデートできた方に奢ること!期限は○月○日!二人ともデートできなかったら割り勘!という取り決めをしているが、きっと割り勘になるに違いない(笑)。結局二人とも高級焼き肉が食べたいだけ。デートの予定は全く無いが、○月○日が待ち遠しい。 このときばかりは、許容量を大幅に超えて堪能するつもりである。

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# by a_kawaraban | 2017-09-14 00:00 | エッセイ | Comments(0)

9月 鰯雲侍 [5F 松浦]

NEW177.png~4日(月)  また気がつくと月が替わってしまいました。今月こそ!と思いつつもう4日。引き続き図書館の魔女を読んでいます。些細な言葉の使い方、方言でマツリカは不穏な男たちの存在に気づき、重臣の暗殺を未遂に防ぐ事に成功します。しかしそれは代替わりして以来沈黙を保っていた図書館が政事に積極的に介入すると宣告したも同然であり、マツリカの周辺がざわつき始めます。そしてハルカゼ、キリンが注意を払っていたにも関わらず、マツリカに刺客が送り込まれたのでした。それは異郷の鬼、護衛の近衛兵たちが次々倒される中、マツリカの危機を救ったのは…!なんとキリヒトでした。これ以上はネタバレになってしまうので書くのは控えますが、2巻目を読み終え、3巻目に突入してますます面白くなってきました。
そしてちょっと気になっていた作家のコミック月曜日の友達の1巻と、日本SF傑作選1 筒井康隆を購入しました。筒井康隆の本は何と厚さ3センチ。迫力のあるボリュームですがほぼ短編集なのでゆっくりと楽しみながら読んでいきたいと思います。

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# by a_kawaraban | 2017-09-04 23:44 | 【 侍 5F 松浦 】 | Comments(0)
177.png 書き出しライブラリー 177.png
このコーナーでは、
かわら版メンバーがいま読んでいる本の
書き出しを紹介しています。



5F松浦
動乱の季節は間近に迫り、安寧を貪るものが平らかと見た水面には初めの波紋がひそかに届いている。それを知る者たちは一ノ谷中央政界に、あるいは海峡の両岸に、布石を置き始めていた。だが数々の布石のうちに、打たれた瞬間には意図が誰にも判然としないものがある。往々にして最後に決定的な役割を果たすのはそうした一着、先んじてその意味に気付いた者が局面を支配する。
⚫︎高田大介 図書館の魔女 第三巻【講談社文庫】

2F山口
逢坂の関を東へと越えてから、おりしも秋の山山、もみじの色を目にのこして、旅路いそがず、浜千鳥の跡しのばれる尾張の鳴海潟、駿河の富士に立つけむり、浮島が原、清見が関、大磯小磯の浦浦をすぎ行き、むらさきのひともとゆえにと古歌に詠まれた武蔵野の草をあわれと見つつ、さらに北の方へとこころざし、みちのくの塩竈の朝なぎ、象潟の蜑が苫屋、また南に下っては上野の佐野の舟橋、信濃に入っては木曽の桟橋、いずこも心ひかれぬかたとてはなかったが、なおこのたびは西国の歌の名どころを見たいものと、ときに仁安三年の秋、葭がちる難波をへて、須磨明石の浦風しみじみ身にしみながら、行くほどに四国にわたって、讃岐真尾坂の林というところに、しばらく杖をとどめた。
⚫︎石川淳 「白峯」(新釈雨月物語 新釈春雨物語 収録)【ちくま文庫】


2F大庭
第一章 1
幼いころの君は、どんな音を聴いていた?
幼いころの君は、どんな匂いを嗅いでいた?
瑛の場合それは、油圧プレス機がたてる規則正しい音だった。
瑛の場合それは、工場から漂ってくるぷんと鼻をつくような油の匂いだった。
⚫︎池井戸潤 アキラとあきら【徳間文庫】


2F山口
およそ、この世に争い事は百害あって一利なしと多くの人が承知しているにもかかわらず、一向にその根の絶えないものはない。
まして親子兄弟が文字通り血で血を洗う戦をくり広げるなぞ愚挙の極みであると思われるのに、史書をひもとくとその例は枚挙に暇がない。
江戸の頃、読本作家として名を成した滝沢馬琴が「椿説弓張月」を書くに当たってその背景に取り上げたのは、その一つ、後世、保元の乱と呼ばれる事件であった。
⚫︎平岩弓枝 私家本 椿説弓張月【新潮社】


2F山口
自由に本を買えるようになってから、あるいはこの仕事に就いてからは、本というものは単行本で購入するのが当然というかふつうになりはしたけれど、思えば十代の頃はそうではなかった。心の友は、いつだって文庫本だった。
⚫︎川上未映子 すべてはあの謎にむかって【新潮文庫】


5F松浦
--本当に秘密を守るのは共犯者だけだからね。そこを弁えてなんびとにも井戸のことを洩らしてはいけない。
マツリカがそう言って、厳に他言を戒めた意味がキリヒトにはまだ判っていなかった。離れの井戸のことをハルカゼにもキリンにも決して言ってはならないと釘を刺したのは、これを言ってしまったら図書館の魔女のお目付役も兼ねている二人から、マツリカらが企てている冒険を止められる可能性があるからだと、この時のキリヒトは考えていた。しかしマツリカの危惧はそうした卑近な問題に係っていたのではなかった。
⚫︎高田大介 図書館の魔女 第二巻【講談社文庫】

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# by a_kawaraban | 2017-09-01 23:34 | 書き出しライブラリー | Comments(0)

8月椰子の実侍[2F大庭]

31日(木) 2cmぴったり。705頁あるアキラとあきら池井戸潤【徳間文庫】を読み終えたのは深夜2時半をまわったころだった。切りの良いところまで、と思いながらも止めることができなかった。なるほど、これが池井戸潤か。勧善懲悪なのかと思いきや、悪(敵)にもやり直せる場所を与える。善(正義)が活きる話は気分がいい。ストレス解消を求めている人に喜ばれるだろうと思う。でも、それだけじゃなく社会や組織を舞台にした読み物としても魅力的で、今回の銀行の貸付をする“バンカーマン”の世界もとても興味深かった。貸してくれた人に感謝。こちらは寝不足になったけれど…。

f0369008_23521381.jpg30日(水) 今日は夏休みを取って神戸方面に出かけた。移動時間が長いので、会社の人が貸してくれたアキラとあきら池井戸潤【徳間文庫】を持って行った。貸してくれた人がメッセージを挟んでくれていた。『池井戸作品はいかがでしょうか?テレビでブレイクする前から池井戸ファンで全作品読破中の作家さんです。今作も、スカッとするラストで、仕事がうまくいかない時に読むとすっきりします。「空飛ぶタイヤ」がWOWOWでドラマになりましたが、この作品も早くもドラマ化のようですね。キャストをイメージして読むと映像的な感じが楽しめますね。向井理×斎藤工、納得です。』私は池井戸作品を読むのは初めてだ。メッセージの他に、「木×仏像 飛鳥仏から円空へ 日本の木彫仏1000年」大阪市立美術館の半券も挟まっていた。夏休みを取ってまで神戸に行った目的は果たせなかったけれど、「行く」という目標は達成できたので満足だ。今日は一日中外にいて、確かな秋の気配を感じた。

25日(金) 何もかも憂鬱な夜に中村文則【集英社文庫】。読む前はもっと暗くて、やりきれない思いをするのではないかと思っていた。施設で育った〝僕〟は刑務官になった。自分自身が混沌としながらも、留置所に留置された犯罪者たちと向き合う。自殺、犯罪、死刑制度、扱うのが難しいテーマを、この本の薄さの中で丁寧に扱っていたと思う。作者はこれを伝えたくて書いたんだな、と思う一文があった。そのことに、文庫本の解説を書いた又吉直樹も触れており、文庫版あとがきの作者の締めの言葉を読んでも、その思いは伝わってきた。中村文則の小説を読んだのは初めてで、また又吉直樹の書いた文章を読むのも初めてだった。パンチが弱いと感じる人もいるかもしれないけれど、私はいい小説だと思う。


23日(水) 由実は着の身着のまますべてを捨て、たどり着いた知らない町で暮らし始める。由実に住むところと仕事を与えたのは、薬屋を営むタバサ。読む進めるにつれ、由実の過去や事情が少しずつ明らかになる。由実の謎に気を取られていると、もっと大きな謎めいた世界がこの町を取り巻いていることに気がつく。医者でもあり、町の人々の薬を調合する薬剤師でもあるタバサ。奇妙な町、奇妙な人々の筆頭であるかのように思われたタバサだけど、読み終えた時には実に人間くさい、ただの男だと思った。由実の過去ははっきりしないままで、何があったのか知らないけれど、由実、あんたこれで良かったの?と聞きたくなった。薬屋のタバサ東直子【新潮文庫】読了。

21日(月) 深谷かほる(@fukaya91)の夜廻り猫 今宵もどこかで涙の匂い【kadokawa】は、平蔵という名前の猫が「泣く子はいねが〜」「泣いてる子はいねが〜」と言いながら夜の町を廻り、涙の匂いがする人を見つけると寄り添って話を聞いてくれる、という8コマ漫画だ。その中に『たのしい夜』というお話がある。平蔵が「今夜は休み…」と呟きながら、友人のちゅうさんに会いに行く。お茶を飲みながらちゅうさんとおしゃべりをして、笑い転げて、寝て、起きたらお昼。「ゆうべは楽しかった…」「何 話したっけ」「覚えてないけど楽しかった…」そう言って平蔵は幸せにそうににっこりする。今日は私も、そんな夜だった。話し上手で褒め上手な版元さんと飲みに行って、たくさん笑った。

20日(日) 昨日は昼間から知人と冷酒を飲みに行き、よい気分で帰ってきてからテレビで大阪桐蔭の試合を観戦し、あんまりな結末にショックでひっくり返って、そのまま寝てしまった。夜は頭が痛くて、読書ができず。今日は朝からネットで気になっていたブログを読み、会社から借りた雑誌の記事を手帖に書き写した。眠る前、これから薬屋のタバサ東直子【新潮文庫】を読むつもり。


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# by a_kawaraban | 2017-08-31 23:30 | 【 侍 2F 大庭 】 | Comments(0)

8月ひぐらし侍[2F山口]

31日(木)幼稚園行事で隣町まで観劇に行ってきた。演目はピーターパン。フック船長が毒を仕込んだ飲み物を、ピーターパンが飲もうとする。一部始終を見ていたティンクが止めに入り、ピーターパンから飲み物を奪ったかと思うと、なぜかそれを飲みほしてバッタリ倒れる。思わず笑ってしまった。何で飲んだん? 「ピーターパン」といえば、やはり世界名作劇場の「ピーターパンの冒険」が秀逸だ。観劇からの帰り道、「かーさん、かっこいいピーターパンが出てくるDVD持ってるよ」と言うと「見たい見たい!」と、ぽっぺんちゃん。明日いっしょに見る約束をした。読書は中古で買った、石川淳の新釈雨月物語 新釈春雨物語【ちくま文庫】を読みはじめる。

30日(水)今日も家の片付け。紙類(本や手紙や帳面や大事そうな書類)に手をつけると、おおごとになる。高校生のときにアミティ(幼馴染四人衆)からもらった手紙、大学の友達ののりこさんが作った詩、1F堀次さんが描いた直江兼続の絵、そういう大切なものをはさんだファイルをめくっていると、片付けをしていることを忘れてしまう。読書は次のフェアの課題図書を読み終える。読み終えたままのテンションでコメントを書こうと思うけど、睡魔がきている。今夜は涼しくて、すうっと眠れそう。

29日(火)月曜日からはじまった幼稚園だけど、まだ自由登園の期間なので、お休みして須磨海浜水族園に行ってきた。エイがひらひら泳いでいるのを見て「じょうずに飛んでるね」と、ぽっぺんちゃん。魚とちがって、エイやくらげは飛んでいるように見えるらしい。ぽっぺんちゃんはくらげやイソギンチャクが好きなようで、ずっと見ている。私は水槽の上の展示版を読むのが楽しかった。たとえばある水槽には、でかでかと「カンブリアの覇者」と書いてある。それがオウムガイだと分かるには、水槽をのぞくか、下に小さく書かれた説明を読むしかない。(カンブリア紀、アンモナイトが現れるまで、オウムガイは最強生物だったらしい。)うまいなあ! 見せ方って大事よねえと、夫と話す。ぽっぺんちゃんに「昼ごはん何食べたい?」と聞くと、「寒いおそば!」。おもしろいので訂正しないでおく。

28日(月)ぽっぺんちゃん、久しぶりの幼稚園。友達から手紙をもらって帰ってきた。たいそう喜んで、返事を書きたいと言う。友達の似顔絵を描くと言うので横で見ていると、下まつ毛まで描くものだから、青ざめているように見える。下まつ毛はやめとこ!と言うと、素直に描き直して、納得のいく絵になったようだ。私は最近物置と化している書斎の片付けをはじめたことで側坐核が刺激されて、次のフェアの課題図書をぐいぐい読む。

27日(日)実家から持って帰ってきた荷物を片付けながら、24時間テレビをちらちら見ていた。つい座り込んで見入ってしまうシーンが多くて、片付けもなかなか進まない。賽の河原のようにぽっぺんちゃんがおもちゃを次から次へと出してくるし…。読書はぽっぺんちゃんのお昼寝中にフェアの本を少し。寝る前の読み聞かせは、オルセンのつきのぼうや【福音館書店】と、ロバート・ブライトのおばけのジョージー【福音館書店】。おばけのジョージーはちょっと難しかったようで、説明しながら読んだ。

26日(土)f0369008_09341116.jpg
味噌漬け卵みたいな色の太陽がぽとんと沈んだあとの海。夕陽って沈み出すと早い。荷作りをして、昨日図書館で借りた本を返して、祖母の家に挨拶に行って、大阪に帰ってきた。寝る前に「これ読んで」とぽっぺんちゃんが持ってきた絵本は、はたこうしろうのなつのいちにち【偕成社】。長かった夏休みもあとわずか。夏も暮れ出すと早くて、この絵本のなかのあふれんばかりの「夏」は、もう過ぎ去ってしまった。どんなに暑くても雲や稲の様子はすっかり秋で、夜になると秋の虫が鳴いている。読書は次のフェアの課題図書を読んでいる。

25日(金)明日大阪に帰るので、図書館に本を返しに行ってきた。はずなのに、また借りてきた。絵本を2冊と、木原敏江の伊勢物語【集英社】。夕方は夫とぽっぺんちゃんと温泉に行ってきた。夫がお気に入りの秘湯めいた久美浜温泉は、山を背負うように作られた広々とした露天風呂に、岩崖から湧き出した温泉が滝のように注いでいる。崖の横には巨大なお地蔵さんが立っていて……と思っていたら、お地蔵さんがスーツを着ていてびっくりした! 子どもの頃の記憶ではお地蔵さんだったのに、錫杖だと思っていたのは杖で、頭はつるつる、ふくよかな顔立ちの創業者の立像だった。ふたりがあがってくるまで、私は休憩所で涼みながら、借りてきた伊勢物語を読んだ。伊勢物語は在原業平を主人公とした恋物語、くらいしか知らなかったので、予想外のおもしろさに読み終えるのが惜しいほどだった。漫画の力は偉大だなあと思う。

24日(木)ぽっぺんちゃんが難しい。粉薬が飲めるようになったり、トイレをひとりでしたりと、今までできなかったことができるようになって、すごいすごい!と言っていたら、気に入らないことがあるとすぐに怒って泣いたり、拗ねて変なことを言ったり、ごはんを食べに行くとじっと座っていられなかったりと、これまでできていたことができなくなった。保育士の友達は、そんなぽっぺんちゃんを見て「成長だねえ。葛藤の時期だねえ」と言う。そうはいっても、なだめればいいのか、叱ればいいのか、気分転換させればいいのか、放っておけばいいのか、どうすればいいかわからずに、私はつい黙り込んでしまう。読書は次のフェア(9月15日アップ)の本を読みはじめる。

23日(水)f0369008_22464563.jpg
ふらりと寄った古本喫茶「一福」で買った本は、折原一の行方不明者【文春文庫】。以前、同じ著者の冤罪者【文春文庫】がおもしろくて、私にはめずらしく、ほぼノンストップで読んだ記憶がある。家に帰ると、大学の友達ののりこさんから荷物が届いていた。開けてみると、なんともイカした金沢みやげで、古典おりがみをさっそく全種類折ってみた。私は福助と鶴がお気に入り。ぽっぺんちゃんは亀を気に入って、亀の背中にシルバニアファミリーの赤ちゃんを乗せて遊んでいる。読書は平岩弓枝の私家本 椿説弓張月【新潮社】を読み終えた。実話とファンタジーが融合した壮大な物語だった。主人公の為朝はモテモテで、為朝のために命をかけるひとの多いこと!しかもみんな決断が早いので、為朝がちょっとまって!と言うのも聞かずにすぐに死ぬ。現代とこの時代の死生観のギャップに、ひとが死ぬたびにくらくらした。


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# by a_kawaraban | 2017-08-31 23:00 | 【 侍 2F 山口 】 | Comments(4)
大庭さんへf0369008_23192955.jpg
いま、グアテマラの弟【幻冬舎文庫】を読み終えたところです。読みたてほやほやです。いつもは読まない解説も、もちろん読みました。
それでさっそく、感想を書こうとペンをとったわけですが、書きたいことがたくさんあって、まずは何から書こうか。
大庭さんが片桐はいりのエッセイを読もうと思ったきっかけは、作家の高橋源一郎がラジオでわたしのマトカ【幻冬舎文庫】を紹介していたからでしたね。大庭さんの「1月葉牡丹侍」と「2月ふきのとう侍」に書かれた、この本を手に入れるまでの経緯を、とても楽しく読みました(私は「動機」マニアなので、なにをきっかけにその本を読もうと思ったのか、とても気になるのです)。
A書店で文芸書を担当していたときに、『わたしのマトカ』も『グアテマラの弟も新刊で並べました。本はいいあんばいに売れました。片桐はいりの本おもしろいんですよ、と薦めてくれたひともいました。でも、へー、そうなのか、で終わらせてしまっていました。本との縁って、つくづく不思議なものだなあと思います。先月いっしょに書店に行ったときに、あらためて大庭さんに薦めてもらって、やっとこうして出会えたわけです。
さてさて、『グアテマラの弟』の書き出しは、まさかの「歯ブラシの替えどきがわからない」。いま思い返すと、なんとうまい書き出しだろうと思うわけですが、はじまりはそんな何気ない日常の一コマからでした。物語(といってもエッセイですが、これはもう壮大な物語ですよね!)には、出奔した弟を探しに片桐さんがグアテマラに旅立ったことや、現地のひととの交流、日本の家族のことが綴られています。
声をあげて笑ったのは、弟に頼まれたチャッカマンを持って、飛行機の手荷物検査を通るシーンでした。緊張しすぎて、読んでいるこちらまで変なテンションになったほど。それほど臨場感とユーモアのある文章でした。
臨場感といえば、この本で私がもっとも好きなシーンーー弟とマヤの遺跡に出かけて、ティカルの神殿にのぼって、ジャングルを見渡したときの描写です。片桐さんが「その高みから見えた景色は、わたしにすべてのあとさきを忘れさせた」とまで書いた圧巻の景色。そこには、目で見たもの、肌に感じたもの、現在に結びつく過去の記憶、そういう一切合切が集約されていました。
グアテマラの旅が終わるころには、私まで弟や弟の嫁と離れがたい気持ちになっていましたが、この本の解説を書いたのがまさかの「弟」で、弟が姉のことを客観的に書いてくれたことで、読み手の私たちの気持ちも、あるべきところに落ち着いて、旅がうまくしめくくられた感じです(弟の文章も素敵ですよね。なんて多才な姉弟!)。
つぎはきっと『わたしのマトカ』を読みます。読み終えたら、またほやほやのうちに手紙を書きます。
酷暑が続きますが、夏のうちにお茶でもしましょう。書店をぶらついて、またオススメの本を教えてください。
2017・7・20 2F山口


山口さんへ
f0369008_08465459.jpgこんにちは。お手紙、ありがとうございます。そしてグアテマラの弟を読んでくださって、ありがとうございます。そうです、わたしが片桐はいりさんのエッセイと出会ったのは、高橋源一郎さんがラジオでわたしのマトカのことをずいぶん楽しそうに紹介していたのがきっかけです。ですが、私が書店に行ったときには『わたしのマトカ』がなく、しかたなく先に『グアテマラの弟』を読んでみることにしました。この前、山口さんと一緒に書店に行ったときにも『グアテマラの弟』しかありませんでしたね。山口さんには『わたしのマトカ』を読んでもらいたかったので、がっかりしました。


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# by a_kawaraban | 2017-08-30 23:59 | フェア | Comments(0)