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フェア#49 秋空フェア

✱秋空フェア✱
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秋ですね...と、書こうと思ったらすぐそこに冬の足音が聞こえている今日この頃。朝はもう、本当に寒い。青空に白い月が浮かんでるのを「切りそこなった大根を昼間の月に見立てていたのは、向田邦子だったか」なんて思いながら、自転車漕ぎ漕ぎ空をチラ見している。フェア#49  秋空フェア_f0369008_21111241.jpg
フェアどうしようか?と皆であれこれ協議している時に、「秋って空見上げること多くない?」と2F山口さんが言って、それはいい!と今回のフェアになりました。その時頭には、青空が広がっていたのですが、蓋を開けてみたら夜空が圧倒的多数 笑。で、でも秋の夜空もいいよね!という事で、楽しんで頂けたら幸いです。素敵な秋空の写真を提供してくれた1F堀次さんも参加してくれました。

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173.png1F 堀次
-太陽がとかす氷を、ぼくらは彗星と呼んでいる。空を彩る流星群は、彗星の落としもの-
● 『世界でいちばん素敵な夜空の教室』 企画/文 森山晋平(ひらり舎)【三才ブックス】

わたしはカメラ小僧である。ある日思った。「夜空」を撮りたい!主役となる「星」を知らねば!
そんなときに出会ったのがこの本。なんとなーく知ってるけどちゃんと説明できないナゼ?ナニ?に、次の日誰かに話したくなるように答えてくれ、写真集としても楽しめる。お得だ。
秋冬の澄んだ夜空を眺めながら、友だちを「へぇぇ!」と言わせちゃいませんか?

173.png2F 山口
「でも、天の川なら、中学生のときにキャンプで見たことあるけど」
「それは、なんていうか、まがいものみたいなもんだよ。本物は、地球を消してしまう。立ってる感覚が消えて、自分の目で、この身で感じるのは、どこまでも本物になるんだ」
●『空で歌う』中山智幸【講談社】

子どものころからマイペースで、どこか浮世離れしていた天文好きの兄の突然の死をきっかけに、弟は兄の元恋人に誘われるまま、兄が生前に申し込んでいたロケットの打ち上げを見に種子島へと車を走らせる─。初対面の男女が、「兄」「元恋人」という共通の幻影を追い求めて旅に出る様子はロードムービーのようで、ふたりの会話や天候の描写に引き込まれます。不意に挟まれる兄弟のエピソードも魅力的で、彼らの孤独と、空に焦がれる気持ちを継いで、久しぶりに夜空を見上げたくなりました。

174.png7F 山川
おうい雲よ
ゆうゆうと
馬鹿にのんきそうじゃないか
どこまでゆくんだ
ずっと磐城平の方までゆくんか
(「雲」)
●『日本語を味わう名詩入門 4 山村暮鳥』萩原昌好編【あすなろ書房】

小学校の国語の教科書で読んだ方もいるはず。私はクラス全員で声を揃えて音読させられた覚えがあるのですが、子供ながらに妙なテンポと味わいを感じて、もっと渋いおじさんみたいなひとが読んだらかっこいいんだろうなあと思っていました。磐城平とは福島の方だと聞いて、ひらけた濃い青空が広がっているんだろうなあとも。
暮鳥の詩はじっと読んでみると音的にもひらがなの多めな字面も、不思議な心地よさを感じます。秋の夜長にいかがですか?

173.png2F 大庭
「頭と体の使いかた次第で、この世界はどんなに明るいものにもさみしいものにもなるのだ」
● 『宇宙のみなしご』 森絵都【角川文庫】

中学2年生の陽子は強気で群れない一匹オオカミ。年子の弟リンは、皆に可愛がられるタイプで、陽子の自慢だ。両親が不在がちでふたりだけの遊びをつくり出すのが得意だった陽子たちがいまはまっているのは、真夜中によその家の屋根に上がること。そのふたりだけの秘密に、陽子のクラスメートたちが入りこんできて…。「宇宙のみなしご」であるわたしたち。宇宙の暗闇にのみこまれて消えてしまわないために、必要なことはなにか。澄んだ寒空に似合う物語です。

173.png5F 松浦
星や星雲が無限の速さで後方に流れていった。数知れぬまぼろしの太陽が爆発しては、うしろで小さくなっていく。彼は影のように星ぼしをつらぬいて飛んでいるのだった。
●『2001年宇宙の旅』アーサー・C・クラーク著【ハヤカワSF文庫】

秋空フェアというテーマから外れているかもしれませんが、私にとって“空”は“宇宙”と均しいのです。この作品を初めて読んだ時、荘厳な宇宙に圧倒されました。また、まだ人間になる前の類人猿の〈月を見るもの〉の、月に対する漠然とした感情、それは人類が空へ、宇宙へと思いを馳せる原点でもあると感じます。物語はモノリスという謎の石板が人類に進化を齎すというこれも壮大な話なのですが、私は暗い宇宙空間に浮かぶ白い宇宙船の姿と、宇宙飛行士のボーマンが星々の門を抜け〈星の子〉に変化する情景に未だ打ち振るえます。

174.png1F 長濱
雨がやむと、雲間からぎらぎらとした太陽と虹がでた。私は給水塔に上がった。-中略-私は陽光を反射させる雲の峰を眺め、給水塔から飛び降りた。羽根のようにくるくると舞いながら落下した。飛べないのだった。何度やっても空には戻れなかった。
●『廃墟団地の風人』(『無貌の神』収録)恒川光太郎【角川書店】

夕焼けや青空などの具体的な空の描写はないが、最近読んだものの中で何故か一番空のイメージが記憶に残った短編。これは空から地上に落ちてきた風人という肉体のない存在が、空に戻ろうと努力するシーン。人間や地上と関わるうちに重さが増して空へ帰れなくなった主人公の風人が、一人の少年と深く関わるうちにその人生に巻き込まれてしまうお話。ラストは物悲しいような残酷なような終わり方だが、不思議と読み返してしまう。

173.png2F 田端
───子どもの頃、夜の時間が大好きだった。外の暗闇が大きく開けていたからだ。母の家はとても狭かったので、ありとあらゆる暗い隅っこには考えたくない物があった。でも外の闇はちがう。(中略)耳をそばだてると聞こえてくるさまざまな物音に、いつも驚嘆したものだ。───
● 『夜の動物園』ジン・フィリップス【角川文庫】

閉園時間間際の動物園。突然の銃声。4歳の息子を連れた母は恐怖に駆られて園内に身を隠すのですが…《夜の動物園》は隠れる場所には困らなさそうに思うのですが、暗がりで動くものに出会ったときの恐怖。連絡手段のスマホの明かりが自分達の位置を犯罪者に知られてしまう恐怖。なによりも最大の恐怖は4歳児の本能のままの言動!事件解決まで3時間余り、頑張った母の物語です。

173.png1F 岡田
幼い頃、死者は昇天して星の群れの一つに化すのだという話を、祖母からきいた記憶がある。夜空に散った星は、すべて死者の数の増す速さに応じて星の光は際限もなくふえているのだという。
●『星への旅』吉村昭【新潮文庫】

「死んじゃおうか」仲間の1人から発せられたこの言葉は、無気力な日々を送る5人の若者に甘美に響いた。自殺するため北へ北へと旅を続け、目的地に着いた日の夜、予備校生の圭一は、夜空を見上げながら死へと思いを馳せる─心の揺れ、迷い、葛藤。本当にするの?口だけでしょ?と半信半疑のまま読み進め、最後は深いため息が漏れた。決断を促すものは確固たる意志とは限らない、ほんの小さなきっかけで、駒はどっちにも転ぶのだなと。昭和41年に書かれた作品ですが、色褪せないのは、いつの時代にもこういう人たちは存在するということですよね。


Commented by tomoko at 2017-11-16 20:04 x
1F岡田さんへ
ちょっとした事で駒はどっちにも転ぶのだな。にドキッとしました。
「死」まではいかないけど、毎日些細な選択の連続で疲れ気味なので、
読んでみたい!と岡田さんの文章に惹きつけられました。

いつもみなさんに心の中でお返事してたのですが、
思い切ってコメントしてみました。
更新楽しみにしています。
Commented by a_kawaraban at 2017-11-16 22:58
トモコ様

丁寧な感想、ありがとうございます。こうして声が届くと嬉しくなります。
『星への旅』是非読んでみて下さい!かなり前の作品ということに加え、短い話なのに、死と生がこれでもかとばかりに凝縮されています。小説に古いも長短もないのだなとつくづく思いました。これからもかわら版をよろしくご愛読下さい。
1F 岡田
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by a_kawaraban | 2017-11-24 23:59 | フェア | Comments(2)

元書店員たちによる読書日記


by おすすめ本処 かわら版